
熟練の技で、プロの料理人をも唸らせる本からすみを作り続ける静岡県沼津市の株式会社川善(代表:川崎幸一)は地元の酒造会社とコラボした「駿河酒粕仕立て 高級本からすみ」で新たな魅力の発信を始めました。さらに、常にその味わいとオススメの食べ方を提供する「本からすみ茶屋」を自社店舗の一角にオープン。114年続く鮮魚問屋が、その先の未来へ向けて、川善の本からすみを愛してくださる方が増えるよう、そして日本の美食文化を一人でも多くの方にご体感いただけるよう挑戦を続けています。

食べ比べができる「本からすみ茶屋」オープン
沼津港の潮風が吹き抜ける川善の店先は、10月から11月末まで、鮮やかなオレンジ色のからすみを天日干しする台がずらりと並び、その圧巻の風景は道ゆく人の目を捉えます。その奥にある店舗の一角に
今年4月28日、本からすみを味わえるカウンターがオープンしました。直売スペースではオンラインで取り扱っていない「特大」「超特大」サイズのおおぶりな逸品が並ぶだけに、その味を求めてプロの料理人が遠方から購入に訪れるなど、知る人ぞ知る場所となっています。原料のボラが獲れる数量は年によって変動があり、商品を提供できない時期もあるため、これまでは直売スペースを期間限定で営業していました。でも、本からすみを購入しようと店舗に足を運んでくださるお客様に常に商品を見ていただけるようにと、通年オープンのカウンター「本からすみ茶屋」を設置したのです。
川善の本からすみは、沼津はもちろん、全国各地で獲れた200~400グラムの大ぶりなボラの卵巣を一本一本丁寧に仕込んで作っていることが特徴。グレーを基調とし、木の天板を使用したシックなカウンターでは、そんな各地のからすみの食べ比べセットや、夏の時期には涼味たっぷりのうどんと一緒に味わう「本からすみの冷やし細うどん和え」などをご提供します。「一口サイズのからすみや、素材として使っていただけるアレンジ料理などを楽しんでいただければ」と4代目の川崎幸一は語ります。


塩漬け、圧搾、天日干し、、、作業手順を改良
川善は明治44年の創業以来、鮮魚の仲卸を本業とするかたわら、沼津港に揚がるボラを使ってからすみを作り続けてきました。幸一が4代目を継いだ昭和60年代、沼津港は大型漁船の水揚げ量も多く、早朝のセリから深夜まで魚の仕分けが終わらないほど活気がありました。しかし、遠洋漁業が主流となり、流通経路が変わるなどしたことで市場の稼働率は激減。廃業する仲卸が増え、川善も経営の厳しい波に何度も襲われました。そんな時、苦境を救ってきたのが作り続けてきた「からすみ」でした。
「より美味しいからすみを作って、お客様に喜んでいただきたい」。からすみは、ボラの卵巣を塩漬けし、塩出しして圧搾、天日干しで乾燥させて作りますが、幸一は先代から引き継いだ工程や作業の仕方を思い切って見直し、より質の高いからすみを作る手順、製造方法を編み出したのです。

「熟成した味わい」求めて試行錯誤
さらに、本からすみの魅力をより高め、本からすみが売り切れた後にも販売できる商品として、「からすみの熟成」に挑戦しました。試行錯誤を経て、2024年から販売を始めたのは沼津の高嶋酒造の代表銘柄「白隠政宗」の酒粕で漬けて熟成し、旨み、味わいを深めた「駿河酒粕仕立て 高級本からすみ」。この商品を開発する際は、若き日の幸一の修行時代のご縁が成功のカギとなりました。
大学卒業後、乗用車に段ボール箱二つを積んで父の伝手があった金沢の仲卸会社の寮に入った幸一は、2年ほど卸業を経験した後、「もっと経験を積みたい」と福岡の仲卸会社で2年半働きました。魚市場が開くのは金沢は午前1時、福岡では午後10時で昼夜逆転の生活でしたが、全国各地の仲卸の仲間と繋がりができたことで、実家に戻って4代目を継いでから、近隣の港にボラが揚がらない時に融通してもらうなど助けられることも多くありました。
からすみに熟成した美味しさを加えたいと考えた時、金沢の修行時代にご縁のあった和食の職人の方から酒粕に調合する素材や美味しく熟成させるヒントなどをいただいたのです。さらに、地元で薬膳料理を作っている方が協力してくださることになり、「白隠政宗」の酒粕の提供も得られることになって商品化が加速。2025年のモンドセレクションに初出品すると優秀品質金賞を受賞し、審査員からは「海の風味、滑らかな食感。酒粕がからすみと影響しあい、洗練された独特のブレンド感があり個性的」といった高い評価に、携わったみんなが嬉しさを分かち合いました。

本からすみの味わいで、世界の人を幸せにしたい
現在、長男の靖幸が5代目として川善に入り、続いて次男の裕太も仲卸やからすみ作り、営業などに携わるようになり、親子で川善の暖簾を守っています。靖幸は大学卒業後の修行の場として福岡の魚市場を選び、2年ほど丁稚奉公しました。「福岡はアジアに向けて開港している一番の港で、海外の漁船の出入りも多い。その現場で肌で感じ、見聞きした流通の動きを参考に、いつか海外でもからすみを知ってもらいたい」と話します。大学時代から英語を学び、一度は海外での仕事を考えたもののコロナ禍で断念した経験があるだけに、得意の英語を活かした海外への展開も視野に入れ、今後の事業展開を思い描いています。
親子で天塩にかけて作る本からすみは、2023年、2024年のモンドセレクションで最高金賞を受賞、2025年5月末にチェコ共和国のプラハで開かれた授賞式では3年連続となる優秀品質最高金賞を受賞し、ダイヤモンドトロフィーに輝きました。「食べたら幸せな気持ちになれると笑顔で話してくださる方をもっと増やしたい」と幸一が話すと、「ゆくゆくは海外に進出して、このカラスミで世界の人を幸せにしたい」と靖幸が思いを繋ぎます。より広い世界に届けるため、これからもからすみを一つひとつ丁寧に作り続けていきます。



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