メディアでは「街中華」が頻繁に取り上げられ、中でも最近は担々麺がトレンドの一つとなっています。長野県松本市で50年ほど前に創業した中国料理「九龍」は、トレンドの波が押し寄せるずっと前から、匠の味わいで街の人々を唸らせ、その胃袋を掴んできました。そして今、コロナ禍を機に手掛けた冷凍担々麺を〝武器”に、3代目が新たな飛躍の扉を開こうと奮闘しています。

料理系番組「テレビチャンピオン」で知名度アップ
麺類、定食、点心、創作中華などメニューは多岐に渡り、「何を食べても美味い!」と評判、口コミサイトで高い評価が寄せられている九龍を創業したのは、初代山田健一さん。長野県塩尻市から東京に出て、中華料理の名店「山王飯店」で数年修行した後、松本市で店を開きました。弟が「一龍」という中華料理店を開いていたことにヒントを得て、自店を「九龍」と名付けたと言います。
2代目浩史さんは、担々麺にこだわりを持ち、一般的な赤い担々麺ではなく、ごまをふんだんに使った白担々麺を提供していました。そのうちにお客様から、「これは美味い!」「この味は、もっと宣伝したほうがいいよ」と後押しされるようになり、ますます味の追求を深めたといいます。数あるメニューの中でも「餃子と担々麺」の人気が高まった頃、その評判をもとに当時、テレビで人気だった料理系番組「TVチャンピオン 中華料理人選手権」に出演を果たします。一次審査、二次審査を通り、三次審査へ勝ち進み、とうとう優勝を勝ち取りました!するとその評判はさらに高まり、来店客数も一気に増えました。店が繁盛し、「これから!」というその時です。浩史さんが突然の病いに倒れてしまいました。

コロナ禍に負けない!開発した冷凍担々麺
それまで、長男の浩希さんに店を継ぐ気はありませんでした。「調理師免許を取れる学校に通わせてもらったから」と、3年ほど実家で奉公すると決め、昭和堅気の父の隣で仕事を見て覚え始めた2年目に見舞われた大きな出来事。女将さんとして店内を仕切る母恵子さん、弟の竜希さん、妹の好恵さん、社員1人というほぼ家族経営のお店は、自分が厨房を守るしかない。そう覚悟を決めて3代目を継いだのは、20歳の時でした。
お店の一大事に、全員が力を集結してお客様に料理を提供し続けました。しかし、またも危機が訪れます。コロナに襲われ、お店を開けることができなくなったのです。途方に暮れそうな中、立ち上がったのは母の恵子さんでした。補助金で餃子を量産できる工場を設立し、冷凍餃子を販売できる冷凍自動販売機も導入しました。そのスペースに空きがあったことから、「担々麺を入れてみよう」というアイデアが生まれたのです。

コロナ禍に冷凍食品を販売する自動販売機は増えたものの、冷凍ラーメンを売る自販機は多くありません。浩希さんが仕入れている麺は、知り合いのラーメン店が作るもので、中太でストレート、食感が良く、麺にもしっかり味があり、濃厚なスープにマッチします。ある日、通常は解凍後に茹で上げていたストックした麺を、手違いで冷凍のまま茹でてしまった時、解凍してから茹でた時とあまり品質に変わりがないことに気づき、冷凍担々麺の開発に弾みがつきました。
スープについても、お店で使っているスープを液状のままパッケージに入れることにしました。麺を茹でる際にパッケージも一緒に加熱し、麺を茹で上げた時に一緒に取り出し、どんぶりに袋から流し込むという、ありそうでなかったスタイルにしたのです。「スープを粉末状や希釈するタイプに作り上げる技術がなかったので、逆転の発想でした。うちのスープは結構パンチが効いた味わいで、濃度も高く濃厚。お店の味をそのまま家庭でも食べてほしい」。こうして、「鍋ひとつ」で“限りなくお店の味に近い味”を再現できる冷凍担々麺は誕生しました。

地元食材の良さをアピール、通販で「味を広く知ってほしい」
店を継いで以来、浩希さんは父が作った味を広く知ってもらうことが3代目としての役割だと考えてきました。「父が開発した白担々麺をもっと知ってもらわないともったいない。だから、父の味を守り伝え、大量にも作れるようにとレシピ化しました」と浩希さん。スピード感を持ってより広く知ってもらおうと2024年に通販事業も始める一方、専門的な評価を得ようとモンドセレクションにも挑戦しました。
そのモンドセレクションでは、見事に金賞を受賞。審査員からは、味、風味、口当たり、食感、パッケージなどに対して全般に高い評価をいただき、「胡麻とニンニクの強い香りに注目」「たれのバランスが絶妙」「麺のアルデンテの食感が見事に表現されている」などとの講評をいただきました。


添加物ほぼ不使用、地元長野産のネギや信州米豚など高品質な味わいを生み出す原材料の力強さと、祖父、父から引き継ぐ調理の腕、秘伝の技が生み出す味わいが高く評価されました。その知らせを一番喜んだのは、リハビリに励む浩史さんでした。
家族が団結して守り続けた味は、今も口コミサイトでの評価も高く、「スープは最後まで飲み干しました」「食べて幸せな気分になった」といったコメントも数多く寄せられています。これからは通販でより広く届けたいと考えている浩希さん。「長野県の食材の良さもアピールしながら、これまで応援してくださった地元の皆さんに恩返しがしたい。通販で九龍の味を知った方には、松本に来る時にはお店の味も味わってほしい」そんな思いを強くし、さらには、長野県内でお店を増やす構想も持っています。長野に九龍あり、松本に白担々麺あり!!多くの人にそう思ってもらえるよう、家族で作り上げた味を守り、広げていくつもりです。






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